アートギャラリー能勢 店主インタビュー

最適な提案で、アートのある暮らしを⽀える

店内に⼊ると、数々の美しい絵画が迎えてくれます。作品は季節に合わせて⼊れ替えるので、訪れるたびに違う絵画に出会えます。あるときはシャガール、あるときは上村松園、そしてあるときはレオナールフジタと、毎回、その出会いに少し幸せな気持ちになって、⽇々のストレスを忘れられるような気がするのです。

アートギャラリー能勢は、絵画の販売はもちろん、オリジナル額縁の制作や、購⼊後のメンテナンスや修復まで、美術品についてのあらゆる相談にのり、最適な提案をしてくれます。


「新築した家に絵画を飾りたい」
「還暦や、結婚記念⽇、開店記念、開業のお祝いに絵画を贈りたい」
「⼤切な思い出を形に残したい」
「絵にひび割れができた」
「掛け軸にカビやシミができた」
「引っ越しの時に、⼤切な作品を傷つけてしまった」
などなど、いろいろな⼈がさまざまな相談を持ち込みます。


その多くの⼈が、「どんな絵を選んだら良いのかわからない?」「美術品の修復ってお⾦がかかるのでは?」と、不安な気持ちを持っています。そんなとき、店主の能勢康孝さんは、「じっくりと話を聞き、シーンや予算に合わせて最適な解決法を提案」するようにしています。

44 年間に 1 万点を超える絵画修復、実績に裏付けられた専⾨店

アートギャラリー能勢が⾃信を持っているのは絵画修復専⾨店だということ。美術品は紫外線や温度・湿度の微妙な変化で、カンヴァス、絵具や顔料が劣化してひび割れたり、染みがでたりします。メンテナンスをすることで防ぐことができますが、そのことを知らない販売業者もたくさんいて、多くの持ち主が諦めてしまいます。しかし、「傷みの程度にもよりますが、かなり修復できるんですよ」と、能勢さんはいいます。

⼀⾔で絵画といっても、描法の違いや、絵具や素材、⾵合いはさまざま、「修復できるかどうか鑑定するには、状態を正しく把握できるだけでなく、経験に裏打ちされた技術⼒が必要」という能勢さん、腕の良い修復家が少ない現状で、「これまで 44 年間に 1 万点を超える絵画を修復してきた経験から、どんな修復作業を施せばいいのか、どの職⼈に頼めばできるのか、そのノウハウを蓄積してきました。そのためさまざまな相談に対応できるし、できないものはきちんとその理由を説明します」と、専⾨店ならではの⼼強い⾔葉です。

染み抜きできれいによみがえった掛け軸

たとえば、ある⽇、年配の⼥性がシミだらけの掛軸をもって訪ねてきました。他の店で断られたということでした。能勢さんは中国で作られた作品だと鑑定。中国では糊などの材料が違うため、染み抜きのために作品を表具から剥がすのが難しく、断る店が多いのだそうです。
そのことを説明したうえで、これまでの経験から、「この品物は剥がせそうなので、できると思います」と答えました。約 1 か⽉後、掛軸は染み抜きを終え、新しい表装で⾒違えるようにきれいになった作品に、お客さんはたいそう喜びました。それを⾒て能勢さんは、「⾃分がやってきたことが間違いではなかった!」と感動、「美術のことで困った⼈に、私の知識と経験でお役に⽴ちたい」と、気持ちを新たにしたといいます。

こだわりの額装は世界でひとつだけのオリジナル

あるとき、「オークションで⽬当ての絵画を落札できたので、ぴったりの額縁をあつらえて欲しい」という⼈がやってきました。額縁は⼤切な絵画を保護するだけでなく、絵画の魅⼒を引き⽴ててくれる⼤事なもので、アートギャラリー能勢の得意分野です。「昭和 40 年の創業時から、先代はまだ珍しかったオリジナル額縁のオーダーを受けていて、これまでに油絵、写真や⽔彩画、刺繍や表彰状、⽇本画や墨絵まで、世界にひとつしかない額縁を作ってきました」。

最近、喜ばれているのは思い出を閉じ込めた⽴体額縁(アートボックス)です。⽣れて初めて履いた靴や、遊んだミニカー、フィギュア、帯、ピンバッチ、最近では新婚旅⾏のお⼟産のぬいぐるみ、⼤きなものでは⻁の⽑⽪や⻲の剥製まで、あらゆるものを額装し、皆さんの思い出作りのお⼿伝いをしています。ボロボロになった掛け軸を、修復ではなくそのままを額に⼊れて鑑賞できるように保存したいという依頼もあるそうです。

「敷居が⾼い画廊ではなく、誰もが気軽に訪れてくれるギャラリー、そんな店作りに⽴体額縁が⼀役買っている」と能勢さん。予算に限りがあるときは、既製の額縁をベースに作ることもあるとか、この作業はすべて店主能勢さん⾃らが担当します。⼦どもの頃から額縁作りを⼿伝ってきた経験からさまざまな知恵やノウハウを駆使して、希望にかなう⼀点を作ってくれるのです。

1⼈でも多くの⼈に絵画を純粋に楽しんでもらいたい

アートギャラリー能勢は、⾳楽や絵画をこよなく愛した先代が創業した画材・額縁店でした。現在の店主、能勢康孝さんが 18 才のとき、1978 年に先代が突然に脳⾎栓で倒れ、能勢さんは⼤学へ通いながら家業を継ぐことになりました。当時、扱っていたのは絵画販売と画材、オリジナル額縁の制作でした。商売のことは右も左もわかりませんでしたが、時代は美術愛好家だけでなく、多くの⼈が絵画を買うようになり、店の営業も順⾵でした。


親譲りのアート好き、美術について相談されると、できるだけのことをして応えたいと、能勢さんは画家や職⼈を訪ね歩き、勉強を重ねてきました。そして古美術や修復へと仕事の幅を広げ、徐々に信⽤を得てきたのです。いろいろな相談を聞いていると、売りっぱなしでその後のメンテナンスの⼤切さや⽅法を知らない業者が多いことに気がつきました。憤りを覚えた能勢さんは、「絵画のことで悩んでいる⼈を助けたい」「1⼈でも多くの⼈に絵画を純粋に楽しんでもらいたい」、そんな思いで専⾨店アートギャラリー能勢を⽇々進化させてきたのです。その成果が認められ、2019 年、平塚商⼯会議所の推薦で神奈川県の優良⼩売店舗として表彰されました。

アートギャラリー能勢は平塚まちゼミにも積極的に参加しています。これまで「初めての額装体験」「ワインと絵画で楽しもう!」「浮世絵(⽊版画)を楽しもう!」を開催。2021 年10 ⽉には「掛軸のお⼿⼊れポイント」を予定して、アートのある暮らしを広めていきたいと思っています。

ラジオパーソナリティや防災活動、ボランティアを通じて⼈とつながる

また能勢さんは仕事のかたわら、いろいろなボランティア活動を続けてきました。1994 年、コミュニティー放送局として誕⽣したラジオ局 FM 湘南ナパサ。市⺠も番組作りに係わろうと、ナパサクラブという番組制作の市⺠チームがつくられ 100 ⼈以上が参加。その⼀⼈として、27 年間、番組パーソナリィティを勤めています。現在は毎週⾦曜⽇ 19 時 30 分から 20 時 30 分まで、「ウィークエンドスピリット・湘南」という番組に出演しています。平塚は七⼣の町、毎回七⼣に関係するネタを披露しているそうです。

2010 年、ナパサクラブの会⻑を務めていたときに、地元の防災団体と協⼒して防災イベントを企画。翌年、東⽇本⼤震災が発⽣しました。このイベントの参加団体とともに被災地⽀援の募⾦を開始し、集めた寄付⾦約 250 万円を、七⼣で縁のある仙台市に届けました。もし平塚が地震に襲われたら、「家族の安全確認後、ナパサクラブの経験を⽣かし情報を発信する役にたちたい」と考えています。

そのためにも平塚の防災⼒強化と被災地⽀援を⽬的としたイベントを提案し、「『平塚』で『つながろう』」で「ひらつな祭」と名付けました。毎年いくつかのテーマを決め、「防災グッズ」から「家具や絵画の固定⽅法」、「災害弱者について」など、さまざまな活動を続けています。昨年はコロナウイルス感染症の流⾏で中⽌となりましたが、2021 年は平塚中郡薬剤師会が参加し動く薬局モバイルファーマシー「災害対策医薬品供給⾞両」が登場。またひらつな祭のテーマカラーであるオレンジマスクを作り寄付を呼びかけ、132 万円を集め福島県、岩⼿県、熊本県の被災地に届けました。

「平塚っていろいろな活動をしている⼈が多く、会議の場などで顔を合わせるたびに情報交換ができます。 『・・・やりたいな』というと、『ソレ、いいじゃない!』とか、いろいろなアイデアが出てきて刺激になり、そんなときは本当に⼈と⼈のつながりが⼤切だと感じます。今、コロナで⼤変だけど、つながることで、仕事もボランティアも続ける元気をもらえるんです」と、能勢さんは笑顔を⾒せます。

取材・文 椿 栄里子



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