生活の道具 『なべや』 店主インタビュー
おばあちゃんの代からの定番は、今も定番。愛され続けてきた生活雑貨がずらり!
扱っている生活雑貨は5000種類以上、専門店の目で本当に使いやすく機能的なものをセレクトし、形も美しく、気持ちをキュンとあげてくれるものばかりです。
シンプルなボールは、今は亡きカリスマインダストリアルデザイナー柳宗理のもので、まさに「用の美」そのもの。親子代々使えるステンレス鍋は知る人ぞ知る新潟、燕三条のミヤコ・ジオプロダクト。親しみやすいのに凜とした野田琺瑯ホワイトシリーズ。使うほどに使いやすく料理も美味しくなる鉄フライパンのリバーライトなどなど。
「当店の商品は先代のころから扱ってきたロングランなんです」というのは店主の升水宏樹さん、「家庭で扱いやすく、機能的で、素材や品質に優れたものをこだわって仕入れています」と、おばあちゃんの代から定番商品で、今も定番であり続ける優れた品々をならべ、日々、リピーターが店を訪れています。
安価な製品があふれているなか、やっぱりちょっと高め……でも何万円もするほどすごく高価というわけではなく、手を伸ばせば買えないこともない5000円から1万円の品揃え。こんなプチ贅沢な生活雑貨は、「使いやすいだけでなく、長く使えるので結局コスパがいいのです」と升水さん。使うたびに少し満ち足りた気分になれるから、最近ではていねいな暮らしを心がける若い人たちからも注目を集めています。
「あれが欲しい」「これも必要」、多くの人の要望に応えたい充実の品揃え!
「いつも新しいものを使いたいと、お手軽な製品をこまめに買い換えるお客さんもいますから、お買得なものも取りそろえています」と、どのお客さんのニーズにも応えたいという姿勢が誰からも支持され続ける理由です。さまざまな日用品も、普及版とちょっといい製品をそろえ、平塚、大磯、二宮など近隣だけでなく、広くは伊豆半島から三浦半島まで、多くの人々の生活を便利で豊かなものにする手伝いをしてきました。
「良い日常品というのは意外と小さな町工場で作っていることが多く、跡取りがいなくてなくなってしまうこともあるんです」と升水さん。「『なべや』ならあるかもしれない」と訪ねてくるお客さんをがっかりさせないためにも、常に新しい製品もチェックして補充、定番商品を大切にしながらも、レミパン や コーヒーグッズ 、ポットなど、新商品の開拓もおこたりません。
平塚八幡の門前に住むこと1000年、暮らしの道具を扱い150年の老舗
升水家の先祖は、およそ1000年前の平安時代末期、平塚八幡宮の門前集落12軒のひとつで、江戸時代始め、平塚に鷹狩りに来ていた徳川家康に一桝の清水を差し上げ、「桝水」という名前を拝領、それが「升水」になったと伝えられています。当時は半農半漁のかたわら『なべや』という屋号で質商を営む名主であったようです。貧しかった平塚宿のために貯金の積み立てを呼びかけ、用水路を作るなど公共事業にあて、村ではリーダー的な働きをしていました。
明治6年、7代目、熊太郎が荒物屋を開業したのが、現在の『なべや』の始まりです。荒物屋とは『ざる』や『おけ』などの台所用具、『わら製品』や『ほうき』、『ちりとり』、『紙』、『ローソク』など、自然にある素材から作られる暮らしの道具を扱う店です。9代目信雄は自ら大阪の古山商店(現在はない)に入り問屋経営を学び、平塚にもどって業務を拡大しました。
10 代⽬、現在の社⻑である升⽔⼀義さんの代から⾦物を扱うようになりました。戦後の復興から技術革新の時代に登場する機能的な新製品のなかから、吟味した逸品を選び店に並べるようになりました。店長の田口国郎さんは勤続56年のベテラン、同じように長く務めている店員たちもみな商品に自信をもってお客さんに勧めてきました。「いくつかの商品の特徴を教えてくれて、しっかり理解して買うことができました」と、感謝の声も届きます。
今どきとは一線を画し、地域に根ざし、地域の人々に愛される店を目指す
インターネットが普及しオンラインへと商売の幅を広げる店も増えているなか、升水さんは、「平塚商店街に買い物にくるのは年配者が多い。お客さんと顔を合わせる商売を大事にしたい」と、今はまだ地域密着型の店を守っていくつもりです。「名前を聞けば顔が浮かぶお客さんとのコミュニケーションを大切に」、しゃべりやすい雰囲気作りを心がけ、悩んでいたり、不安を感じているようなお客さんには声をかけるようにしています。
お客さんからの質問も多く、たとえば『フッ素加工の鍋はどのくらいもつの?』とか、『鉄フライパンのお手入れは大変では?』、『ステンレス鍋を焦がしちゃって・・・』とか、升水さんはそのひとつひとつにていねいに応えるようにしています。最近ではデパートでも各メーカーから派遣されている店員が多く、担当製品以外の知識がないこともあるようですが、升水さんはきちんと商品知識を勉強するために、年に数回は大きな展示会に顔を出し、毎年生産地の工場見学に出向き、担当者から直接に教えてもらっています。
入念な準備でのぞむまちゼミ、参加者に最高の体験をしてほしい
『なべや』では、まちゼミにも積極的に参加しています。主に取り上げるテーマは「土鍋で炊いたご飯でおにきらずを作ろう」「簡単ギフトラッピング」のふたつ。コロナ禍の今年は、食べるものは避け、「籐のコースターをつくろう」を開催する予定です。毎年、参加者に楽しんで欲しいと、入念な事前準備をしています。
たとえば「土鍋で炊いたご飯でおにきらずを作ろう」では、大磯のお米マイスター戸塚正商店に相談し、米は平塚の名産品「はるみ」を使うことにしました。日本穀物検定協会の食味ランキングで2018年、2019年と「特A」の評価を受けたお米です。
炊き方も初年度はお米マイスターに指導をうけ、その後は升水さんが担当しています。同じ「はるみ」でも生産年によってや、新米か古米かで、炊き方は変わります。1週間程前から、水加減や火加減を調節して何回も試し、今年のお米の一番の炊き方を研究します。
体験は土鍋の炊き方ですが、裏方で普通の文化鍋、ステンレス多層鍋で「はるみ」を炊き、3つの鍋の炊き比べを試食できるようにしています。「土鍋で炊いたご飯は粘りが強くかみ応えがある、多層鍋はあっさりした炊き上がり、文化鍋はその中間、味はどれが良いということではなく好み」と、升水さんは鍋による違いをていねいに説明してくれます。
「簡単ギフトラッピング」では、一通りの包み方を習得している升水さん、季節に合わせて包装紙やリボンを選び、より素敵に見せるためのシールや切り絵を検討します。
他にも、とっておきの講座をたびたび開催
2018年からは、若い人に人気がある鉄フライパン「リバーライト極」の講習を開催、クッキングコーディネーターの先生とメーカーの担当者を招きました。餃子とチャーハンを実演しながら油の使い方や火加減について教えてもらい、参加者自身も鉄フライパンを使ってみました。もちろんその後は試食、みな笑顔で美味しいひとときを過ごしました。
「美味しいコーヒーの淹れ方講座」では、平塚市内の自家焙煎専門店いつか珈琲屋が登場、日本一になった焙煎士がいることで有名なお店です。コーヒー豆の選び方や焙煎の基礎知識を教えてもらいながら、挽き立て入れ立てのコーヒーを試飲。升水さん自身もすっかり虜になって、毎日、自宅で挽き立て入れ立てコーヒーを楽しむようになりました。
古き良き伝統を守りながら、新しいことにチャレンジ
『なべや』は町を盛り上げる活動にも積極的に参加しています。平塚「七夕まつり」に毎年出展するのはもちろん、街の活性化のために活動する平塚まち活のメンバーとして、「青空ファミリースペース」を担当しています。「青空ファミリースペース」は、平塚商業まつりや大門市などの地域イベントのとき、商店街を歩行者天国にして、人工芝をしき子どもたちが遊べるスペースをつくり、みんなで体操したり、地域が仲良く楽しむ企画です。
11代目店主の升水宏樹さんは、これまで歴代の店主が築いてきた『なべや』の信用を守りながら、新しいことにも挑戦していこうと考えています。2020年にはコロナ禍で自宅時間を大切にする人が増えていることに注目し、「平塚市産業間連携ネットワーク」の支援のもと、新ライフスタイルブランド「SLEEPFULL(スリープフル)」プロジェクトを発足、香るスリッパ「スリープフル・シューズ」を開発・販売しました。市内のスリッパ製造会社「(株)アーバン」やマイクロカプセル技術の「(株)日本カプセルプロダクツ」とチームを組み一緒に開発、「大変だったけど、楽しかった」という升水さん。「『いいものを作りたい』という思いでコストをかけ過ぎました。すごく良いものができたと自負してはいますが、単価が高くなっちゃって…」と、学ぶことも多く、これからにつなげていければといいます。
「『なべや』が守ってきたお客さんとのつながりを大事にしながらも、これからはデジタル化とかも検討しなくてはと思っています。が、まずはできることからやっていきたい。小さなイベントをもっと開催したいので、早くコロナが収束することを願っています。一人一人のお客さんに『なべや』を知ってもらい、商品を知ってもらい、商店街の一店舗として輝くことを目標にしていけば、それが平塚商店街の活性化にもつながる」と、今後の展開に意欲を見せます。